個人開発者には部署がありません。企画も実装もQAもリリースもマーケも、全部自分です。
でもClaude Codeにはスキルという仕組みがあります。手順書(SKILL.md)を置いておくと/コマンドで呼び出せる機能 — これを使って、僕は自分の開発環境を「ひとり開発会社」にしました。汎用スキル11本+プロジェクト専用スキル群という構成で、数ヶ月運用しています。
この記事では、その組織図と、運用して見えてきた設計原則(名前衝突・実数の単一ソース・最小権限)を公開します。
この記事で分かること
- Claude Codeのスキルを「部署」に見立てた実際の構成(11本の役割分担)
- 汎用スキルとプロジェクト専用スキルの2層構造と、名前衝突の罠
- 数値をハードコードしない「実数の単一ソース」パターン
- 何からスキル化を始めるべきか
結論: スキルは「優秀な部下」ではなく「業務マニュアル」
先に、運用して掴んだ本質を書きます。
- スキルの正体は「特定の場面の業務マニュアル」です。AIが賢くなるのではなく、毎回同じ品質の手順で仕事をさせられるようになる
- 価値が出るのは繰り返し発生する定型業務(リリース・バグ調査・記事作成)。1回きりの作業をスキル化しても元は取れない
- そして会社と同じで、部署が増えるほど規約(命名・権限・データの持ち方)が効いてくる。後半で紹介する設計原則が、実は一番の資産です
組織図: 汎用スキル11本の役割分担
~/.claude/skills/(ユーザーレベル=どのプロジェクトでも使える場所)に置いている「本社の部署」です。
| 部署 | スキル | 仕事 |
|---|---|---|
| 総務(環境構築) | /setup-project |
プロジェクトを1コマンドで「会社」化。CLAUDE.md自動生成・ファクトファイル・hooks・CI雛形を一括導入 |
| 企画 | /spec |
要件をヒアリングして仕様書を作成 |
| 実装 | /scaffold |
既存アーキテクチャに合わせた機能の雛形を生成 |
| QA | /diagnose /gen-tests |
バグの原因を体系的に特定/既存テストのスタイルを模倣してテスト生成 |
| 品質・国際化 | /ui-audit /i18n /compat-check |
UIレビュー/多言語キーの同期/DB・API変更が配信中バージョンに与える影響判定 |
| リリース | /release |
バージョン更新・差分収集・リリースノート・記録更新を一括実行 |
| 広報 | /promo /sns |
ASO/SEO施策の提案/SNS投稿文の作成 |
| 人事 | /create-skill |
スキルを作るスキル。定型作業の発掘と、既存スキルの陳腐化点検 |
ポイントは人事部(/create-skill)の存在です。「この作業、3回目だからスキル化しよう」という判断や、「このスキル、実装が変わって古びてないか」の点検までスキル化しておくと、会社が自己増殖・自己修復するようになります。
2層構造: 本社(汎用)と現場(プロジェクト専用)
スキルの置き場所は2つあります。
- ユーザーレベル
~/.claude/skills/— どのプロジェクトでも使う汎用手順(上の11本) - プロジェクトレベル
.claude/skills/— そのプロジェクト固有の知識が要る手順
たとえばこのサイト(AppVillage)には記事作成の専用スキル/new-articleがあり、Morphica(AI写真変換アプリ)には/debug・/release-prep・/db-migration-checkなど11本の専用スキルがいます。汎用の/diagnoseとMorphica専用の/debugは役割が同じですが、専用側はプロジェクト固有のエラー分類表やファイル地図を持っているので、同じ目的なら専用スキルを優先というルールにしています。
罠: 同名スキルはユーザーレベルが勝つ
ここに1つ、実運用で効いてくる仕様があります。同名スキルはユーザーレベルが優先され、プロジェクト側を黙って隠します。うっかり汎用側にdebugという名前でスキルを作ると、Morphicaの専用/debugが呼べなくなる。
対策として、うちでは予約名レジストリを運用しています。各プロジェクトの専用スキル名と、Claude Code本体・プラグインが使う名前を一覧にして、「汎用スキルにこの名前を付けるの禁止」と明文化したものです。/create-skillが新しい専用スキルを作るたびに、このレジストリへ自動で追記します。会社で言う「命名規則の社内標準」ですね。
実数の単一ソース: 数字をスキルに書かない
もう1つ、運用の柱にしているのがファクトファイル(docs/project_facts.md)です。
売上・DL数・URL・キャンペーンID — こうした「実数」をスキルやドキュメントに直書きすると、更新のたびに古い数字がどこかに残ります。そこで:
- 実数は1ファイルに集約し、全スキルはそこを参照する(暗記も直書きも禁止)
- 書き込み権限は
/releaseだけが持つ。他のスキルは読み取り専用 - ファクトファイルが無いプロジェクトでは、スキルは「/setup-projectの実行をおすすめします」と一言添えて、コードの実読で続行する(ブロックはしない)
「読み書きの権限を分ける」のは会社の経理と同じ発想です。数字の更新経路が1本だと、マーケ資料もSNS投稿文も常に最新の実数で作られます。
最小権限: 読むだけのスキルにWriteを渡さない
各スキルには使えるツールをallowed-toolsで宣言させています。UIレビューやバグ調査のような「読んで報告する」スキルに、ファイル書き込みの権限は与えない。
これはAIの暴走対策というより、スキルの役割を設計として固定する効果が大きいです。診断部署が勝手にコードを直しはじめない — 修正はレポートを見た自分が判断して依頼する。会社の職務分掌と同じで、境界がはっきりしているほど1つ1つの仕事の質が安定します。
会社ごとバージョン管理する
~/.claude/ディレクトリ自体をprivateのgitリポジトリにして、スキルや規約を変更したら即コミットしています。
スキルは書いて終わりではなく、運用しながら手順を直し続けるものです。変更履歴がそのまま「会社の改善史」という資産になりますし、マシンを乗り換えてもcloneひとつで会社ごと引っ越せます。
実際の1日: この記事も「会社」の産物
たとえば新しいプロジェクトを始めるときの流れはこうです。
/setup-project → CLAUDE.md・ファクトファイル・hooks を一括導入(会社設立)
/spec → 作りたい機能の仕様書化(企画会議)
/scaffold → 既存構成に合わせた雛形生成(実装開始)
/gen-tests → テスト生成(QA)
/release → リリースノート・記録更新(リリース)
/promo /sns → 告知文の作成(広報)
そして今読んでいるこの記事も、AppVillageの専用スキル/new-article(記事の雛形作成・運用ルールの参照)を起点に書かれています。会社の業務フローの中から、会社紹介の記事が出てくる — ちょっと入れ子構造ですが、定型業務のスキル化が回っている実例です。
始め方: 最初の1本のおすすめ
いきなり11本作る必要はありません。おすすめの育て方は:
- 「毎回同じ説明をしている作業」を1つ選ぶ — リリース作業かバグ調査が鉄板です
- 手順を箇条書きにしてSKILL.mdに書く — 最初は5行でもいい。使いながら育てる
- 3回使ったら見直す — 実際の会話でスキルの指示を訂正した内容は、スキル本文に還元する
- 増えてきたら規約を作る — 命名・権限・データ参照のルール。ここから「会社」になります
まとめ
- Claude Codeのスキルで、個人開発に「部署」を作れる。実体は繰り返し業務のマニュアル化
- 構成は汎用11本(本社)+プロジェクト専用(現場)の2層。同名衝突はユーザーレベルが勝つので、予約名の管理が必要
- 実数の単一ソース(書き込みは/releaseのみ)と最小権限(読むだけのスキルにWriteを渡さない)が運用の柱
~/.claude/ごとgit管理すれば、改善履歴が資産になり、会社ごと引っ越せる
ひとりで全部やるのが個人開発ですが、全部を毎回ゼロから考える必要はありません。あなたの開発環境にも、まず1部署、作ってみてください。



